採用活動において優秀な人材を確保するためには、単に求人を掲載して応募を待つだけでは不十分です。年々人材獲得競争が激化する中で、採用候補者との関係構築と志望度の向上が企業の採用成功の鍵を握ります。そこで注目されているのが「ナーチャリング」という考え方です。本記事では、採用におけるナーチャリングの意味、重要性、効果的な実践方法について詳しく解説します。

 

1. 採用における「ナーチャリング」とは?

1-1. ナーチャリングの意味と採用文脈での定義

「ナーチャリング(Nurturing)」とは、本来「育成する」「養育する」という意味を持っています。ビジネスでは、主にマーケティング分野で「見込み客を育成する」という意味で使われてきました。具体的には、すぐに購入する意思のない見込み客に対して、計画的に情報を提供し、関係性を構築しながら、徐々に購買意欲を高めていくプロセスを指しています。

近年、採用においてもナーチャリングの考え方が注目されています。採用におけるナーチャリングとは、単に候補者を集めるだけでなく「候補者との継続的な関係構築を通じて、企業への理解と志望度を高めていくプロセス」です。候補者一人ひとりの状況や関心に合わせた情報提供や交流を通じて、企業と候補者の相互理解を深め、最終的に入社意欲を高める方法になります。

1-2. なぜ今、採用でもナーチャリングが重要なのか?

採用においてナーチャリングが重要視されている背景には、以下のような要因があります。

①人材獲得競争の激化
特に専門性の高い職種や需要が高まっているIT・デジタル人材などは、企業間の人材獲得競争が激しさを増しています。単に求人を出して待つだけ、転職顕在層にアプローチするだけでは、優秀な人材を獲得することが難しくなっています。

②情報収集の変化
転職を検討している求職者は、企業の公式情報だけでなく、口コミサイトやSNSなど多様なチャネルから情報を収集します。また、選考が進むにつれて複数の企業を比較検討する求職者が増えているため、継続的に自社の魅力を伝える必要があります。

③求職者の主体性向上
かつての「企業が選ぶ」時代から「求職者と企業が相互に選び合う」時代へと変化しています。求職者は自分に合った職場環境や働き方、企業文化を重視する傾向が強まっており、企業側もそれに応える必要があります。情報が少ない企業はそれだけで採用競合に負けかねません。

④ミスマッチ防止の重要性
採用におけるミスマッチは、企業・求職者の双方にとって大きなコストとなります。採用ナーチャリングを通じた深い相互理解は、入社後のミスマッチリスクを低減します。

1-3. 採用マーケティングとの違いと重なり

近年、注目を集めている採用戦略の1つに採用マーケティングがあります。採用ナーチャリングは採用マーケティングと密接に関連していますが、以下のような違いと重なりがあります。

採用マーケティング

  • より広範囲に企業ブランドや採用情報を発信
  • 認知拡大を主な目的とする
  • 不特定多数の潜在候補者へのアプローチ
  • 企業から一方向性のコミュニケーションが多い

採用ナーチャリング

  • 既に接点のある特定の候補者に焦点
  • 志望度向上・関係構築を主な目的とする
  • パーソナライズされたアプローチ
  • 双方向のコミュニケーションを重視

実際には、採用マーケティングで関心を持った候補者に対して、ナーチャリングを行うという流れが一般的です。つまり、採用マーケティングが「入口」を広げる施策であるのに対し、ナーチャリングは「通過率」を高める施策と言えるでしょう。

 

2. 志望度を高めるためのナーチャリング戦略

では、どのように採用においてナーチャリングを進めると良いのでしょうか。ここでは、ナーチャリングの設計と戦略を解説します。

2-1. 候補者の「温度感」を可視化・把握する

効果的なナーチャリングの第一歩は、候補者の「温度感」(志望度やエンゲージメントレベル)を把握することです。これにより、適切なコミュニケーション方法や頻度を選択できます。

温度感の評価指標例

  • 企業イベントへの参加履歴
  • メールやメッセージの開封率・反応率
  • 面談時の質問内容や積極性
  • SNSでの企業関連投稿への反応
  • フィードバックの内容や速さ

多くの企業では、CRM(顧客関係管理)ツールを応用した採用管理システムを活用し、候補者の行動履歴や交流記録を一元管理しています。候補者ごとに採用管理システム内の情報をスコア化し、可視化することで温度感を把握することが可能になります。

例えば、「ホットリード」(志望度が高く、すぐにアクションが期待できる候補者)、「ウォームリード」(関心はあるが、さらなる情報や交流が必要な候補者)、「コールドリード」(まだ関心度が低く、継続的な働きかけが必要な候補者)などに分類し、それぞれに適したアプローチを設計します。

2-2. タッチポイントごとの印象戦略(SNS、メール、面談など)

候補者との接点(タッチポイント)は多岐にわたります。それぞれのタッチポイントの特性を理解し、一貫性を持ちながらも最適化されたコミュニケーションを設計することが重要です。

SNS

  • カジュアルで親しみやすい企業文化の発信
  • 社員の日常や職場の雰囲気を伝える
  • イベント告知や採用情報の共有
  • 候補者からの質問に迅速に対応

メール

  • パーソナライズされた内容と件名
  • 簡潔かつ明確な情報提供
  • 次のステップやアクションの明示
  • 開封率を高めるタイミングの工夫

面談

  • 準備された環境と時間厳守
  • 候補者の関心事に合わせた会話
  • 企業文化や職場環境の具体的な説明
  • 質問に対する誠実で透明性のある回答

企業説明会/採用イベント

  • インタラクティブな要素の導入
  • 実際の業務や環境が伝わる工夫
  • 現役社員との交流機会の提供
  • フォローアップの明確化

重要なのは、どのタッチポイントでも企業のバリューやカルチャーが一貫して伝わることです。異なる担当者が関わる場合でも、候補者に対する情報や対応に矛盾がないよう、社内での情報共有と連携が不可欠です。

2-3. パーソナライズされた情報提供とコンテンツ設計

効果的なナーチャリングで最も重要なことは、候補者一人ひとりのニーズや関心に合わせたパーソナライズです。候補者全員に一律した情報提供ではなく、候補者の背景や希望に合わせたコンテンツを提供することで、エンゲージメントが向上します。

パーソナライズの主な要素

  • 候補者の専門分野や経験に関連した情報
  • キャリアの志向性に合わせたストーリー
  • 候補者が関心を示した特定の領域の詳細
  • 前回のコミュニケーションを踏まえた継続的な会話

効果的なコンテンツ例

  • 類似したバックグラウンドを持つ社員インタビュー
  • 候補者の専門分野に関連するプロジェクト、業務事例
  • 想定配属先部署の詳細情報
  • 候補者の懸念事項に対応するQ&A資料

パーソナライズを効率的に行うためには、候補者情報のセグメント化が有効です。例えば、職種、経験レベル、志望動機などでグループ化し、それぞれに最適化されたコンテンツを用意しておくことで、完全なカスタマイズと効率のバランスを取ることができます。

2-4. 選考前~内定までの段階別コミュニケーション設計

採用ナーチャリングでは、候補者の採用プロセスにおける各段階に応じて、コミュニケーションの内容や頻度を最適化することも大切です。選考プロセスの各段階で候補者が抱く疑問や不安は異なるため、選考プロセスの段階に合わせたアプローチが重要となります。

選考前(関心段階)

  • 企業理念や事業内容の基本情報
  • 業界のトレンドや自社の位置づけ
  • カジュアルな交流機会の提供
  • キャリアセミナーや企業説明会への招待

選考中(検討段階)

  • 選考プロセスの透明な説明と進捗共有
  • 具体的な業務内容や期待役割の詳細
  • チーム構成や直属の上司に関する情報
  • フィードバックの提供と次ステップの明確化

内定後(決断段階)

  • 具体的な入社準備情報の提供
  • 将来のキャリアパスや成長機会の説明
  • 同期入社予定者や配属先チームとの交流
  • オンボーディングプロセスの事前説明

各選考段階で重要なのは、候補者の不安や疑問を先回りして解消することです。例えば、選考中は「いつ結果が出るのか」「次は何をすべきか」という不安が強いため、迅速かつ明確なコミュニケーションが特に重要になります。

 

3. 採用でナーチャリングが成功すると何が変わるのか?

 

それでは、採用でナーチャリングに成功するとどのようなメリットがあるのでしょうか? ここではナーチャリングによって企業側にもたらされるメリットを4つお伝えします。

3-1. 内定承諾率の向上

採用におけるナーチャリングの最も直接的な効果は、内定承諾率の向上です。候補者が企業に対する深い理解と信頼を持っていれば、競合企業からのオファーがあっても自社を選ぶ可能性が高まります。

複数の調査によれば、計画的なナーチャリング施策を導入した企業では、内定承諾率が平均で15〜30%向上したという結果も報告されています。特に、候補者との接点が多く、パーソナライズされたコミュニケーションを実施した企業ほど、高い承諾率を達成しています。

内定承諾率の向上は、採用コストの削減にも直結します。新たな候補者を集めるためのコストよりも、既に関係のある候補者の志望度を高めるコストの方が一般的に低くなりやすいためです。

3-2. 採用ブランディングの強化

優れたナーチャリングは、単に目の前の候補者の志望度を高めるだけでなく、企業の採用ブランド全体を強化する効果があります。

候補者は自分が大切に扱われていると感じれば、たとえ入社しなくても、その企業について周囲に好意的に話す可能性が高まります。SNSや口コミでの評判向上は、将来の採用活動にも好影響をもたらします。

「選考を辞退したけれど、あの会社は素晴らしかった」「あのサービスは良かった」と感じてもらえれば、その候補者が将来的に再応募したり、友人を紹介したりする可能性も高まります。そのため、候補者との接触内容は重要なのです。

3-3. 選考辞退・内定辞退の削減

丁寧なナーチャリングは、選考途中での辞退や内定後の辞退を減少させることに繋がります。これは特に採用リードタイムが長い職種や、競争の激しい業界・職種においては重要です。

選考辞退の主な原因の一つは「情報不足による不安」です。

企業側からの連絡が少なく、選考の次のステップが不明確であったり、働く環境が不透明であれば、候補者は別の選択肢に流れやすくなります。ナーチャリングによって、こうした不安を解消できるとともに、継続的なエンゲージメントを維持することができます。

内定辞退についても同様で、内定から入社までの期間(特に数ヶ月ある場合)に適切なコミュニケーションがなければ、候補者の不安は増大し、他社への乗り換えリスクが高まります。

3-4. 入社後のエンゲージメント向上にも好影響

優れた採用ナーチャリングの効果は、入社後のパフォーマンスやエンゲージメントにも及びます。採用プロセスでの丁寧なコミュニケーションを通じて、企業文化や期待役割への理解が深まった候補者は、入社後の適応も早くなる傾向があります。

実際、採用段階での適切な情報提供は、入社後の「リアリティショック」(期待と現実のギャップによるショック)を軽減する効果があります。これにより、早期離職のリスクも低減します。

さらに、ナーチャリングを通じて構築された信頼関係は、入社後のマネージャーとの関係構築や、チームへの帰属意識形成にもプラスに働きます。結果として、より高いエンゲージメントと生産性につながるのです。

 

4. 志望度を下げてしまうナーチャリングのNG例

効果的なナーチャリングは志望度を高めますが、誤ったアプローチは逆効果となり、優秀な候補者を失う原因になりかねません。以下に、避けるべき典型的なNG例を紹介します。

4-1. 一方通行の情報発信・押しつけ感のある接触

ナーチャリングの目的は「対話を通じた関係構築」であるにもかかわらず、企業側の一方的な情報発信に終始してしまうケースが少なくありません。

NG例

  • 企業の魅力ばかりを一方的に語る
  • 候補者の質問や懸念に真摯に向き合わない
  • 定型文のみの機械的なコミュニケーション
  • 候補者の反応を待たずに次々と情報を送りつける

改善策

  • 候補者からの質問を促し、真摯に回答する
  • 対話の機会(カジュアル面談など)を積極的に設ける
  • コミュニケーションごとに少なくとも一つの質問を含める
  • 候補者の反応を見て、次のコミュニケーション内容を調整する

4-2. コミュニケーションが遅い/不十分

採用市場における競争が激化する中、レスポンスの遅さは致命的です。特に優秀な候補者は複数の企業から声をかけられていることが多く、対応の遅い企業は選考から外されやすくなります。

NG例

  • 質問への回答に数日以上かかる
  • 選考結果の連絡が著しく遅い
  • 「検討中です」など具体性のない返答を続ける
  • 次のステップや予定が明確に伝えられない

改善策

  • 24〜48時間以内の返信を基本とする
  • 即答できない場合も、まず受信確認と回答予定時期を伝える
  • 選考プロセス全体の見通しと現在地を常に共有する
  • 担当者不在時のバックアップ体制を整える

4-3. 全候補者に同じテンプレ対応をしてしまう

効率化のために全候補者に同一のメッセージを送る「一括送信型」のナーチャリングは、個々の候補者のニーズや関心を無視しているため、効果が低くなります。

NG例

  • 候補者の名前以外が全く同じ定型メール
  • 候補者のバックグラウンドや関心と無関係な情報提供
  • 前回のやり取りを踏まえていない重複した質問や説明
  • 明らかにテンプレートと分かるような不自然な文面

改善策

  • 候補者情報(職歴、関心事項など)に基づくセグメント化
  • 前回のコミュニケーション内容を参照した会話の継続
  • テンプレートをベースにしつつも、個別カスタマイズする
  • 候補者特有の質問や懸念に対する個別対応を優先する

4-4. 社内で候補者情報が共有されておらず一貫性がない

採用プロセスには複数の担当者(採用担当、現場マネージャー、役員など)が関わることが一般的です。情報共有が不十分だと、候補者は混乱し、企業の組織力に疑問を抱きます。

NG例

  • 異なる担当者から矛盾する情報が提供される
  • すでに回答済みの質問を何度も繰り返される
  • 前回までの選考内容を把握していない面接官が対応する
  • 候補者の希望条件が対応者間で共有されていない

改善策

  • 採用管理システムを活用した候補者情報の一元管理
  • 面接前の面接官間での情報共有ミーティング
  • 候補者とのやり取りを全て記録し、関係者が閲覧できる状態にする
  • 候補者向けの主要情報(給与、条件など)の標準化と共有

 

5. まとめ:ナーチャリングで採用成功率を高めよう

 

5-1. 志望度は「待つ」のではなく「育てる」もの

採用活動において、候補者の志望度は静的なものではなく、企業との交流を通じて変化していくものです。「高い志望度を持った候補者を待つ」のではなく、「候補者との関係構築を通じて志望度を育てていく」という発想の転換が重要です。

特に現代では、優秀な人材ほど複数の選択肢を持っているため、受動的な姿勢では人材獲得競争に勝ち残ることは難しくなっています。候補者の期待や不安に寄り添い、丁寧にコミュニケーションを重ねることで、他社との差別化が可能になります。

5-2. ナーチャリングの仕組み化で採用成果が安定する

ナーチャリングを個々の採用担当者の力量や裁量に委ねるのではなく、組織として仕組み化することで、安定した採用成果を実現することができます。

仕組み化のポイント

  • 候補者ステージごとのコミュニケーション計画の策定
  • 候補者データの一元管理と分析体制の構築
  • 定期的な効果測定と改善サイクルの確立
  • 社内関係者への研修と意識共有

採用ナーチャリングの効果は一朝一夕で現れるものではありませんが、継続的な取り組みによって、長期的な採用パフォーマンスの向上につながります。

5-3. AUTOHUNTなら採用候補者のナーチャリングも可能

ナーチャリングを実現をしたいと思っても、候補者の温度感を可視化し管理するのは大変です。効率的なナーチャリングを実現するには、適切なツールの活用も重要です。

AUTOHUNTであれば、転職市場にいない優秀な転職潜在層を探し出すことだけでなく、候補者情報の一元管理やメッセージ送信後のステータス管理までできるため、効率的なナーチャリングが可能となっています。また、プロフィールの変更通知を受け取ったり、アクティブ率で転職ニーズが高まったタイミングを察知することも可能です。そのため、候補者のニーズに合わせてアプローチすることができ、管理やアプローチが大変だったナーチャリングをAUTOHUNTが容易にしてくれます。

 

 

採用におけるナーチャリングは、単なるテクニックではなく、「候補者を大切にする企業姿勢」の表れでもあります。丁寧なコミュニケーションと関係構築を通じて、候補者と企業の相互理解を深め、ミスマッチのない採用を実現していきましょう。